工場設備の更新タイミングはいつ?判断基準と失敗しない進め方
- inoテック
- 7月31日
- 読了時間: 16分

▶︎1. 工場設備の更新とは?基本と目的

1.1 設備更新とは何か?(修繕・改修との違い)
工場で使われる設備には、日々の生産活動に欠かせない多くの機械や装置が含まれます。これらの設備は経年劣化や使用頻度によって、次第に性能が低下したり、故障のリスクが高まっていきます。そんな中で重要になるのが「設備更新」という取り組みです。
設備更新とは、既存の設備を新しいものに入れ替えることを指します。
混同されやすい言葉に「修繕」や「改修」がありますが、それぞれの意味は異なります。
修繕:故障した部品や機械の機能を復旧する作業(部品交換など)
改修:性能や機能の一部を改善する作業(カスタマイズや増設など)
更新:設備全体を新しいものに交換する作業(完全入れ替え)
たとえば、古くなった制御装置がソフトウェアに対応しなくなった場合。修繕では一部の部品交換で済むこともありますが、更新では制御装置全体を新しいシステムに切り替えます。
こうした区分を理解しておくことで、必要以上の費用をかけずに最適な対応を選びやすくなります。
特に更新は、大きな費用がかかることも多いため、「いま本当に更新が必要なのか?」「修繕や改修で済ませられないのか?」という判断が欠かせません。
更新は単なる入れ替えにとどまらず、生産性の向上・安全性の確保・省エネや省人化など、将来への備えとしての役割も持っています。
1.2 なぜ更新が必要か?(生産性や安全性、環境面)
設備更新は大きな投資になりますが、その分、得られるメリットも多くあります。更新を後回しにしてしまうと、思わぬコストやリスクが発生することもあるため、なぜ更新が必要なのかを正しく理解しておくことが大事です。
主な目的は以下の3つに分けられます。
1. 生産性の向上
古い設備は処理速度が遅く、故障も起こりやすくなります。その結果、作業効率が落ち、生産にムラが出てしまうことも。設備を更新することで、最新の技術や自動化機能を取り入れることができ、作業時間が30〜50%短縮されるケースもあります。
たとえば、手動作業が多かった工程を自動ラインに切り替えることで、少ない人手でも安定した生産ができるようになります。
2. 安全性の確保
老朽化した設備を使い続けていると、感電・巻き込み・転倒などの事故につながるリスクが増えます。特に安全装置やセンサーが古くなっていると、万が一の時に人命に関わる重大事故が起こる可能性も。
更新によって、最新の安全基準を満たす装置へと切り替えることで、現場のリスクを大幅に軽減できます。「安心して作業できる環境づくり」も更新の大事な目的のひとつです。
3. 環境面・エネルギー効率の改善
古い設備は、電力や燃料の消費量が多く、環境負荷が大きい傾向があります。更新により、省エネ型の設備に入れ替えることで、電気代の削減やCO2排出量の低減につながります。
また、環境関連の法規制に対応するためにも、設備更新は避けて通れません。今後の法改正を見越して、早めに対策しておくことが求められています。
更新の目的を明確にしておくことで、導入後の効果を最大限に引き出すことができます。
▶︎2. 更新を検討するタイミングの判断基準

2.1 点検記録や故障頻度から見る判断の目安
設備を更新するタイミングは、「いつ壊れるか」ではなく「壊れる前」に判断することが理想です。そのために役立つのが、日々の点検記録と故障履歴です。
点検記録は、設備の劣化を見極める“健康診断”のような存在です。
どの部品がどれくらいの頻度で交換されているか、異音や振動は発生していないか、温度や電流値に異常はないか…。これらの情報を定期的に記録しておくことで、小さな変化にも気づけるようになります。
点検記録が示す更新タイミングのサインには、以下のようなものがあります。
同じ部品の交換頻度が上がってきた
故障時の修理に時間がかかるようになってきた
消耗品の消費ペースが以前より早くなってきた
点検ごとの異常発見数が増えてきた
こうしたサインを放置していると、ある日突然のライン停止や重大な事故につながるおそれがあります。
また、1年間で何回故障しているかという頻度も重要な判断材料です。たとえば、年に1回程度の軽微なトラブルなら様子を見る判断もありますが、年に3回以上の停止が発生しているなら、更新の検討に入るべきタイミングです。
よくある失敗として、次のようなパターンが見られます。
故障が起きてから対処しようとする
点検データを蓄積していないため劣化傾向に気づけない
部品交換で済むと思っていたら、製造中止で更新しか選択肢がない
これらを避けるには、以下のような対策が有効です。
点検時のデータをデジタルで一元管理する
故障・修理履歴を可視化し、年度ごとに傾向を把握する
保全担当者だけでなく管理職にも記録内容を共有する
更新の判断は「勘」ではなく「記録と傾向」に基づくべきです。
特に、多品種・小ロット生産などで稼働計画がタイトな現場では、1日でも設備が止まると致命的な影響が出ることも。だからこそ、日常点検の積み重ねが、最適な更新時期の見極めにつながります。
2.2 国税庁の耐用年数や法定基準との関係
設備更新の判断材料として、国税庁が定める法定耐用年数も重要な指標のひとつです。これは、税務上の減価償却期間を示すもので、各種設備ごとに年数が定められています。
たとえば、以下のような耐用年数がよく使われています。
設備の種類 | 法定耐用年数(目安) |
金属製の機械装置 | 10〜15年 |
電気設備 | 6〜15年 |
ボイラーなど熱機器 | 6〜12年 |
空調設備 | 13年前後 |
この年数を過ぎた設備は、帳簿上ではすでに資産価値がゼロになっているため、更新のタイミングを検討しやすくなります。ただし、あくまで「税務上の目安」であり、実際の使用可能期間とは一致しない点に注意が必要です。
また、最近では労働安全衛生法や省エネ法などの法令基準が厳格化されており、古い設備では基準を満たさないケースも増えています。
以下のようなリスクも無視できません。
機械が旧式で、現行の安全装置が取り付けられない
効率が悪く、エネルギー基準を下回ってしまう
排気・排水処理が現行の環境基準を満たせない
これらの状態で使い続けると、法令違反による指導・停止命令・罰則の対象になるリスクも出てきます。
実際には、次のような運用がよく見られます。
耐用年数を迎える前に点検や診断で状態を確認する
耐用年数後も使用を続ける場合は、安全・環境面の再評価を実施する
更新計画を立てる際には、耐用年数と法改正の両方をチェックする
更新のタイミングを見極める上で、耐用年数は「最低限のライン」として意識しておくことがポイントです。
とくに、更新時に補助金制度を活用したい場合は、耐用年数に達していることが条件になることもあるため、事前の確認が欠かせません。
2.3 生産性・運用コスト・安全規制など外部要因
設備の更新タイミングは、設備そのものの状態だけでなく、周囲の環境変化=外部要因によっても大きく左右されます。これらを見落としていると、「まだ使えるから」と判断していた設備が、突然不要になったり、使えなくなったりすることもあるため注意が必要です。
特に重要なのは、次の3つの外部要因です。
1. 生産計画の変化
新製品のライン立ち上げや、多品種少量生産への切り替えなど、生産体制が変化すると、既存設備が対応しきれなくなることがあります。たとえば、従来よりも精度や速度が求められる場合、古い設備では対応できず、生産ロスが増えてしまうことも。
「まだ動くから」と使い続けていると、納期遅れや品質トラブルにつながるリスクがあります。
2. 運用コストの増加
古い設備ほど、メンテナンス費や電気代・修理費などの運用コストが増えがちです。表面上の故障が少なくても、消耗品や部品交換、作業者の手間などが年々増加している場合は、総合的なコストパフォーマンスで見直す必要があります。
たとえば、消耗品の調達が困難になってきた、修理対応に時間がかかるなどの兆候があれば、更新を検討するサインです。
3. 法規制・補助金制度の影響
近年は安全衛生・省エネ・環境負荷などに関する法令や業界基準が毎年のように見直されています。これにより、旧式設備では「基準を満たせないから更新せざるを得ない」という状況が発生するケースも。
また、自治体や公的機関による補助金制度がある場合、「今更新すると費用負担が軽くなる」というチャンスになることもあります。制度の対象となる機器や条件は毎年変わるため、定期的にチェックすることが重要です。
設備更新のタイミングは「設備の劣化」だけでなく、「周囲の変化」によっても訪れます。
▶︎3. 工場設備更新の判断に影響する要素

3.1 老朽化の兆候と劣化診断のポイント
設備は長年使い続けていると、見た目ではわかりにくい“老朽化”が内部で進行していることがあります。そのまま放置すると、突然の故障や事故のリスクが高まり、生産ラインの停止や作業者の安全に関わる事態にもなりかねません。
そこで重要になるのが、老朽化の兆候を見逃さないための診断です。
よく見られる老朽化のサインには、次のようなものがあります。
稼働時に異音や振動が増えた
オイル漏れや焦げた臭いがする
モーターや制御盤が異常に熱くなる
作業中の停止回数が増えている
表面の腐食や塗装の剥がれが目立つ
こうした兆候が見られる場合は、一時的な修理で済ませるのではなく、全体の劣化状況を診断することが大切です。
診断を行う際には、以下のようなポイントを押さえておくと効果的です。
劣化診断の主な方法
振動測定:回転装置のバランス崩れや軸受け摩耗を早期に察知できる
サーモグラフィ:モーターや基板の異常発熱を非接触で確認できる
電流測定:通常よりも電流値が高くなっていないかで負荷の変化を把握
給油・摩耗確認:グリスの劣化や部品の摩耗具合を点検
これらの診断は、目視点検だけでは気づきにくい内部の異常を把握するうえで非常に有効です。
しかし、次のような落とし穴に注意が必要です。
点検をルーティン化せず、担当者の経験に頼っている
異常があっても「まだ動いているから大丈夫」と判断してしまう
診断結果を記録せず、次回に活かせない
こうした状況を防ぐためには、点検をデータ化し、劣化の進行を“見える化”することが重要です。
最近では、簡易的な診断機器を導入して、現場でも手軽に異常検知ができるツールも増えてきています。導入することで、診断の精度も高まり、更新の必要性を客観的に判断しやすくなります。
劣化は静かに進行します。だからこそ、早めの診断と判断が更新時期の見極めに直結するんです。
3.2 更新コストに影響する見落としがちな費用要素
設備を更新するとなると、多くの人が「購入費用」や「導入費用」ばかりを気にしがちです。しかし実際には、見落とされがちなコスト要素が数多く存在します。それらを把握しておかないと、予算オーバーや想定外の費用発生に直面することになります。
設備更新にかかるコストは、本体価格だけではありません。
見逃しやすい費用には、次のようなものがあります。
本体以外で発生する主な費用項目
既存設備の撤去費・廃棄処理費
古い設備の取り外しや産業廃棄物としての処分には専門業者の対応が必要です。処分方法によっては追加費用が発生することも。
据付・配線・基礎工事費
大型設備では、床の補強や電源・配管の整備など、周辺インフラの整備が求められるケースもあります。
試運転・初期調整・検収対応費
新設備が正常に稼働するかどうかを確認するための初期調整作業。生産条件に合わせたチューニングも必要になる場合があります。
教育・マニュアル作成費
新しい機器を現場でスムーズに使いこなすためには、操作説明や研修資料の準備も欠かせません。
これらを含めると、本体費用の1.2〜1.5倍程度の費用が必要になることも珍しくありません。
さらに、更新に伴って発生する「目に見えないコスト」も意識しておく必要があります。
見えにくいコスト要素
生産ラインの一時停止による機会損失
設置工事や調整のために一時的にラインが止まると、製品の出荷遅延や納期変更のリスクが生じます。
作業効率低下の一時的な混乱
現場のオペレーターが慣れるまでに時間がかかると、一時的に生産効率が落ちることもあります。
不具合対応や追加修正の発生リスク
想定外の接続不良やソフトウェアの不整合が発生し、初期対応に追加費用がかかるケースもあります。
これらのコストを事前に洗い出し、見積もり段階で反映しておくことが失敗を防ぐカギです。
また、補助金制度やリース契約を活用することで、初期負担を抑える方法もありますが、それぞれ申請手続きや条件確認が必要なので、事前準備が大切です。
「想定外の出費」で焦らないためにも、コストは“全体像”で考えるクセをつけておきましょう。
3.3 更新のタイミングを左右する外部環境の変化
設備更新は内部の劣化だけでなく、外部環境の変化によって急に必要になることがあります。計画的に対応できるよう、次のような要因に注意しましょう。
影響を与える主な外部要因:
補助金制度の期限や条件の変更
活用タイミングを逃すと数百万円の差が出ることも
部品や設備の供給停止・販売終了
壊れても修理不能=強制的な更新になるリスク
法改正や安全基準の強化
古い設備では基準を満たせず、改善命令の対象に
エネルギー規制の強化
省エネ性能が基準以下の設備は使用制限がかかる可能性あり
こうした動きを把握することで、「緊急ではなく、戦略的な更新」が可能になります。
▶︎4. 実際の場面を想像できる更新シナリオと注意点
4.1 朝のライン停止を減らす点検ルーチン設計例
朝一番で設備が止まると、その日1日の生産計画に大きく影響します。予防策として有効なのが、ルーチン点検の仕組み化です。
効果的な点検ルーチンのポイント:
始業前の10分チェックを習慣化
異音・異臭・温度異常などを短時間で確認
簡易チェックリストの整備
誰でも同じ基準で点検できるよう項目を明確に
QRコードやタブレットで点検記録を即入力
記録漏れを防ぎ、情報の蓄積がしやすくなる
異常の早期報告ルールを徹底
小さな異変でもすぐに共有できる体制づくり
これにより、突発停止の回数が大きく減るだけでなく、現場の安心感も高まります。
4.2 部品交換頻度から見極める更新判断シーン
設備の本体は問題なさそうでも、部品の交換頻度が増えている場合は、更新のサインかもしれません。交換作業にかかるコストや手間も無視できません。
更新を検討すべき兆候は次の通りです。
同じ部品を年2〜3回以上交換している
部品自体が寿命、または周辺の劣化が進行中
交換後のトラブル発生率が上がっている
取り付け精度や接続不良などで逆に不安定になる
部品の納期が長くなってきた
供給体制が不安定な場合、急ぎの対応が難しくなる
部品コストが以前より大幅に上がっている
調達コストの上昇で更新の方が長期的に安く済むケースも
「修理すればいい」と思っていても、費用とリスクのバランスで見直すことが重要です。
4.3 新設備導入後の教育計画やモニタリングシナリオ
設備を更新しただけでは現場は動きません。スムーズな稼働のためには「教育」と「モニタリング」が不可欠です。導入後の混乱を防ぐためにも、事前に計画しておきましょう。
導入後に必要なステップ:
操作マニュアルの整備と事前説明会の実施
基本操作からトラブル対応まで、全員が理解できる内容に
現場リーダー向けの重点研修
初期対応や簡易調整ができるようにする
一定期間のモニタリング体制を構築
稼働データやエラー履歴を集め、安定稼働の基準を明確化
改善フィードバックの共有フローを設ける
実際の運用で気づいた点を全体に反映しやすくする
導入直後の不具合やオペレーションミスを防ぐには、準備と仕組みがカギです。
▶︎5. 計画の立て方とロードマップ策定のポイント
5.1 ロードマップ作成のステップと期間目安
設備更新は一度きりの対応ではなく、中長期的な計画として考えることが大切です。そのためには、明確なロードマップの作成が欠かせません。
基本ステップは以下の通りです。
現状の設備を棚卸し・分類
稼働年数・故障頻度・使用頻度でグループ化
更新の優先順位を明確に
リスクの高い設備・影響範囲の大きい設備から着手
更新スケジュールを年度ごとに設定
全体で3〜5年スパンを想定して分割計画に
各フェーズで必要な予算と人員を見積もり
工事や教育にかかる工数も事前に想定
上位者・現場の合意をとったうえで全社共有
調整や稼働の兼ね合いも含めて可視化
段階的なロードマップを作ることで、無理なく計画的に更新が進められます。
5.2 予算計画や段階導入の方法(費用分散の工夫)
設備更新は高額な投資になりがちですが、一括更新にこだわらず、段階的に導入することで費用負担を抑えることができます。予算とのバランスを取りながら、計画的に進めましょう。
費用分散のポイントは以下の通りです。
複数年に分けて更新する年次計画を立てる
年度ごとの予算枠内で対応しやすくなる
主要設備と周辺機器を別タイミングで更新
一度に全体を止めず、影響を最小限に
補助金やリース制度の活用を検討
初期負担の軽減や月額制でキャッシュフロー改善も可能
業者と価格交渉し、段階発注の条件を事前確認
まとめて見積もりを取りつつ分割実施する手もあり
段階導入を前提にすれば、予算に縛られず、柔軟に対応できます。
5.3 社内体制整備と教授・運用フォローアップ計画
設備を導入して終わりではなく、その後の運用・定着を支える社内体制の整備が重要です。教育やフォローアップ体制が整っていないと、せっかくの設備も十分に活かされません。
整備すべき体制や仕組みは以下の通りです。
導入段階で教育責任者を明確に決めておく
教える側の準備が整っていることで研修がスムーズに
部門ごとに操作・保全の担当者を設置
属人化を防ぎ、万一の対応力を高める
定期的なレビュー・点検のルールを作成
導入後のトラブルや改善点を吸い上げやすくなる
マニュアルやチェックリストを社内共有
紙・デジタル両方で誰でも見られる状態が理想
運用定着には、社内の協力体制と継続的な仕組みづくりが欠かせません。
▶︎6. まとめ
ここまで、設備更新の必要性や判断基準、実行のポイントまで幅広く解説してきました。最後に重要なポイントを整理しておきましょう。
設備更新で押さえておきたいチェックポイント:
日常点検と記録の蓄積
小さな異変に早く気づける体制を整える
更新タイミングの判断は複数の要因で
故障頻度・コスト・法規制・外部環境の変化を総合的に確認
段階的な更新計画と予算管理
全体を見据えた中長期的なロードマップがカギ
導入後の教育・運用体制も忘れずに
フォローが甘いと効果を活かしきれない
「壊れてから更新」ではなく、「備えて更新」する視点が、設備管理の質を大きく左右します。
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